幼少期・小児からの顔面神経麻痺に対する治療
目次
小児の顔面神経麻痺のタイプとその治療
ここでは、東大病院形成外科の顔面神経麻痺専門外来を受診する小児の顔面神経麻痺患者さんで、比較的多い3つのタイプについて紹介します。
- 顔面神経下顎縁枝麻痺(下制筋麻痺)
- 顔面神経不全麻痺(第一第二鰓弓症候群*に伴うものと、それ以外のものに分けられます)
- 両側顔面神経麻痺(メビウス症候群**)
*第一第二鰓弓症候群とは?(日本形成外科学会のページに移動します)
**メビウス症候群とは?(難病情報センターのページに移動します)
顔面神経下顎縁枝麻痺(下制筋麻痺)
片側の口角・下口唇下制筋の麻痺が原因です。平常時にはまったく普通の顔ですが、笑うと麻痺側の下口唇が下に引かれないため、下口唇の形状が非対称になります。この口角・下口唇下制筋の麻痺の程度は患者さんによってさまざまで、ある程度動くが弱い人もいれば、まったく動かない人もいます。
ある程度動いている人には、以下の1)または2)、もしくはその両方の手術を行います。
1) 大腿筋膜を移植して下口唇の変形が顕著に出ないようにする手術
2) 非麻痺側(反対側)の下制筋へ行く顔面神経を少し減らしたり、下制筋を少し切除したりして健側があまり引かれないようにして顔を対称に近くする手術
全く動きのない患者さんに対しては、
3) 1)や2)を併用しながら、神経・血管柄付き遊離筋肉移植を行い、筋肉自体の動きも作る手術
を行う場合もあります。
どの手術をするのが良いかについては、受診されたときに、筋電図検査や動きの評価を行い、本人やご家族と相談しながら決めることになります。
顔面神経不全麻痺
片側の顔の動きがところどころ弱いタイプの顔面神経麻痺で、第一第二鰓弓症候群(外部リンク)に伴うものと、それ以外のものがあります。平常時の顔は普通の患者さんもいますが、第1第2鰓弓症候群を伴う患者さんでは、麻痺側の顔が少し小さいことも多く、耳介変形を伴っていることもあります。
治療法は、基本的に、成人の陳旧性顔面神経麻痺の治療に準じて行いますが、ここでは、第1第2鰓弓症候群を伴う患者さんに対しての手術法を紹介します。
神経血管柄付き遊離筋肉・脂肪組織移植術(顔が小さいことに対しては、背中やお腹の脂肪を血管付きで移植して顔を膨らませます。同時に、筋肉を神経付きで移植して顔に少し存在している顔面神経と神経縫合して、顔の動きを補うようにします)を行います。この手術は複雑に見えますが、1回の手術で行うことができます。
両側顔面神経麻痺(メビウス症候群)
メビウス症候群とも呼ばれ、生まれつき、両側の顔面神経麻痺がある患者さんで、顔はほぼ対象ですが、両側顔面神経麻痺のために表情に乏しく、閉瞼が困難であったり、笑っても口角が動かなかったりします。
このタイプの患者さんでは、顔面神経が両側で機能していないので、三叉神経という別の神経で支配されている側頭筋を用いて動きを再建したり、神経・血管柄付き遊離筋肉移植を行い、神経を三叉神経支配の咬筋神経につないだりして、顔の動きを再建します。