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特に得意としている疾患

SPECILITY

難治性潰瘍・褥瘡

下肢潰瘍

目次

はじめに

当科では「足や脚の傷が治らない」と訴える患者の治療を行っています。傷(皮膚潰瘍)を生じやすい下肢の解剖・生理学的特性として、外傷や物理的刺激を受けやすいこと、動脈の交感神経支配が強く皮膚血流量が少ないこと、重力によるうっ滞や血栓を生じやすいことが挙げられます。下肢の難治性皮膚潰瘍は、下記のような様々な原因によって生じます。

  • 糖尿病(糖尿病性足病変)
  • 動脈硬化(閉塞性動脈硬化症, バージャー病など)
  • 静脈うっ滞(下肢静脈還流異常、下肢静脈瘤など)
  • 膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、抗リン脂質抗体症候群など)
  • 血管炎(結節性多発動脈炎など)
  • 皮膚悪性腫瘍(有棘細胞癌など)
  • 感染症(壊死性筋膜炎、非結核性抗酸菌症など)
  • 物理的障害(熱傷、靴擦れ、褥瘡など)
  • リンパ管循環障害
  • 放射線障害

創傷外科を担うわれわれ形成外科医は、まず適切な診断と重症度の判定を行います。そして各患者の病態に応じた適切な治療法を選択するために、糖尿病内科、血管外科、膠原病内科、皮膚科、リハビリテーション科などの他科専門医と緊密に連携をとりながら、集学的な治療を進めていきます。また、医師だけでなく創傷ケアの専門看護師、義肢装具士なども含めたチーム医療を実践し、可能な限り早期の創傷治癒と患者の社会復帰を目指します。以下に主な病態について説明します。

糖尿病性潰瘍

現在我が国における糖尿病患者数はいわゆる予備軍を含めると推定2200万人以上といわれ、全人口のおよそ6人に1人を占めます。そのうち主として下肢に生じた難治性潰瘍、壊疽を合併する患者は3%以上存在し、年間およそ3000件以上の足切断術が行われています。しかし単に糖尿病性潰瘍と一口にいっても、それらの原因となる因子、具体的には神経障害の有無や程度、末梢動脈疾患による虚血の有無やその程度、また感染の合併の有無を客観的かつ正確に評価し、刻々と変化する創部の状態に応じた適切な治療を実践しなければなりません。さらに創傷治癒達成後の再発予防を継続することも重要です。
壊死組織は身体の感染防御能力を低下させ、細菌繁殖の栄養源となるため、これを除去することにより(外科的デブリードマン)創傷治癒を促します。骨隨炎の合併が疑われる場合にはMRIによる画像検査を施行し、腐骨の追加切除を行い、起因菌同定による適切な抗生剤の経静脈投与を行います。その後、サイトカイン成長因子局所投与(bFGF製剤など)を併用した開放式洗浄法や局所陰圧閉鎖療法(NPWT)で創傷管理を行っていきます。なお、高血糖の状態では術後感染のリスクが高く、創傷治癒も遅延するため、術前から血糖を良好に管理することにより、創傷治癒遅延を阻止します。
図1. 糖尿病性足壊疽(引用元:長谷川 宏美, 市岡 滋. 「下肢難治性潰瘍の治療」 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌, 2011:15;9-15

虚血性潰瘍(動脈硬化性潰瘍)

安静時疼痛と壊疽患者の潰瘍は、急速に進行する可能性があり、脈管専門医への紹介の遅れは下肢切断のリスクを増大させるため、内科的治療を行いながら、並行して末梢動脈疾患による血流障害の治療を進めます。皮膚潅流圧(SPP)は、虚血性潰瘍の評価に有用であり、30mmHg以下では創傷治癒が望めないため、治療のためのさらなる評価(超音波検査、造影MRA、血管造影など)を行います。虚血性潰瘍患者に対する末梢血行再建術は、下肢血流を増加させることで潰瘍を治癒させることが期待できます。血行再建において、主に外科的バイパス術が行われますが、近年では血管内治療の進歩により血管内治療の比率が増加してきています。
一般的には外科的に壊死組織や不活化組織を取り除くことで正常な創傷治癒が誘導されますが、原則的には感染していない不活化組織へのデブリードマンは血行再建後に限り行います(動脈血流不全により、治癒に必要な因子が不足する潰瘍に対するデブリードマンは、潰瘍の拡大をもたらし、さらに代謝需要の増加によって虚血を悪化させる可能性があるからです)。なお、末梢動脈性疾患の死亡率リスクは、年齢、動脈不全の重症度で増大し、10年死亡率は60%程度です。そのリスクを軽減する内科的管理は、皮膚潰瘍罹患率と死亡率減少に重要な影響をもち、対処するべき課題であるため、禁煙、糖尿病、高脂血症、高血圧などの管理も重要となります。
図2. 虚血性潰瘍(引用元:匂坂 正信, 大浦 紀彦, 他. 「重症下肢虚血における創傷治療」 杏林医学会雑誌, 2019:50;5-10

静脈うっ滞性潰瘍

慢性静脈不全は静脈弁の機能不全により血液が逆流する病態であり、これが重症化すると静脈うっ滞性潰瘍を生じます。まず他の疾患を除外し、潰瘍の原因となる慢性静脈不全を評価します。治療は保存的治療(圧迫療法など)と外科的治療(筋膜下穿通枝結紮切離術など)が主体となります。外科的治療は慢性静脈不全に対する治療、および創傷に対する治療の両方を考慮します。また再発率が高いため、治療後も弾性ストッキングを用いた圧迫療法やリハビリテーション(下腿筋肉ポンプ機能を増強する運動)を継続的に行い、再発を予防します。
図3. 静脈うっ滞性潰瘍(引用元:佐藤智也, 市岡滋. 「静脈うっ滞性潰瘍に対する局所陰圧閉鎖療法の適応」 創傷. 2014:5;175-180

膠原病や血管炎に伴う皮膚潰瘍

膠原病や血管炎に伴う潰瘍は,原疾患の病勢によって潰瘍の状態が容易に変化する点で他の皮膚潰瘍と性質が異なります.潰瘍部位の循環障害を改善することにより保存的治療で軽快することもあれば,些細なことで再び循環障害に陥り潰瘍の再発を繰り返すこともあります.このような病態を考慮すると趾切断術などの積極的な外科的治療の適応は慎重に検討されます。全身性の結節性多発動脈炎では初期に比較的大量のステロイド薬を使います。症例によっては同時に免疫抑制剤の内服や点滴をします。このように膠原病・血管炎に伴う皮膚潰瘍の治療においては、疾患特有の経過を考慮する必要があり,粘り強く保存的な治療を優先し,手術に関しても植皮・骨掻爬(骨髄露出)・指趾切断術の順に,常に温存と低侵襲な治療を優先しながら治療を進めていきます。
図4. 結節性多発動脈炎(引用元:公益社団法人 日本皮膚科学会 Q15結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎・顕微鏡的多発血管炎)